事例
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伝統工芸の技術継承と人材育成にAIを活用している企業
所在地 岩手県盛岡市
従業員数 8名
資本金 300万円
事業内容 金属製品製造業
タヤマスタジオ株式会社
▶ 長期にわたる若手育成期間を背景に、職人育成と生産性向上の両立が課題
岩手県盛岡市のタヤマスタジオ株式会社は、400年以上の歴史を持つ伝統的工芸品である南部鉄器を製造・販売する企業である。2018年に厚生労働省から「卓越した技能者(現代の名工)」に選ばれた田山和康氏を父に持つ田山貴紘社長が、2013年に設立した。南部鉄器は精巧で硬派な作りが特徴で、その製造技術は職人の繊細な感覚に頼るところが多く、火に当てた際の音や色などが暗黙知として継承されてきた。そのため、技術継承は熟練のベテラン職人によるOJT指導が一般的で、若手職人が一人前になるまで10年ほどの長期間を要していた。ベテラン職人が指導を丁寧に行うほど、鉄器製造に割く時間が減少して生産性が低下してしまうほか、若手職人の戦力化に時間が掛かることも経営面では負担となっており、職人育成と生産性向上の両立が課題だった。
▶ 複雑な工程を省略した新製品の開発とAI活用で若手職人への技術継承を効率化
田山社長は「若手職人が早期に付加価値を生み出せる環境を整備することが経営と技術継承のカギ」と考え、2018年に新製品「あかいりんご」の開発に着手。「あかいりんご」は田山社長が考案した、表面に模様を持たないシンプルなデザインの鉄瓶であり、高度な技術が必要で習熟に時間が掛かる「模様押し」の工程を省いた簡易な作りにした。若手職人でも基礎的な技術の活用だけで完成まで一貫して対応できる製品を開発したことで、技術習得が容易になり、人材育成の簡略化と量産体制の構築を進めた。さらに、2023年から取り組んでいるのが技術継承へのAIの活用だ。2018年に参加したAI導入促進のワークショップから着想を得た後、2019年にAIを活用した技術継承を支援する事業を行う盛岡市出身の経営者との出会いを契機に、同社と岩手大学との共同研究が開始。昨年には盛岡市の補助金を活用して実証実験も行っており、和康氏へのヒアリングを基に、鋳造の基本から南部鉄器の不良発生のメカニズムなどを工学的知見も含めて学習させることで、熟練のベテラン職人の思考をモデル化し、若手職人が製造技術やノウハウの基礎的な部分をAIから自主学習できるようにした。これらの取組を通じて、経験や感覚に基づく暗黙知を形式知に変換し、効率的な技術継承が可能となる仕組みづくりを進めている。
▶ 従来の3分の1の期間で若手職人の戦力化を実現し、若手・ベテラン共に生産性が向上
「あかいりんご」の開発とAI活用により、現在は入社3年目の若手職人が、製品を一人で完成させている。田山社長の発想の転換が生み出した「あかいりんご」は、模様押しの工程省略により価格も抑えられ、かつ、手に取りやすい価格と生活になじみやすいデザインという従来の南部鉄器と異なる特徴が注目されて顧客の裾野を広げることにも成功した。AI活用を通じては、年齢の離れた職人間のコミュニケーションの質の向上や、ベテラン職人の指導時間の減少といった効果も見え始めているという。現在は、鋳造などの基礎的な技術・ノウハウにとどまるが、今後は着色や火入れ具合など高度なノウハウの継承にもAIを活用できるように試行錯誤を続けている。「過去からの積み重ねは早く習得するのが責任だ」という意識で、技術習得の仕組みづくりを行っている。『あかいりんご』とAI活用を組み合わせて、新たな積み重ねを行い、伝統工芸を高度化させていきたい」と田山社長は語る。
田山貴紘社長
田山社長考案の「あかいりんご」
AIによる製品評価