事例
1-1-8
島民の生活を守るために『サプライチェーン事業承継』に取り組んだ企業
所在地 長崎県五島市
従業員数 39名
資本金 1,000万円
事業内容 道路貨物運送業
株式会社奈留島運輸
▶ 離島での生活を支える商店が、事業継続に向けて譲受先探しに着手
長崎県五島市の株式会社奈留島運輸は、五島列島のほぼ中央に位置する奈留島に本社を置く運送業を手掛ける企業である。九州商船株式会社の代理店として柿森誠社長が創業し、奈留島で始まったマグロ養殖をきっかけとして2018年に運送業にも進出。九州本土から毎日船で届く生活必需品を島内へ配送するほか、工事現場で使う木材や機材なども取り扱い、離島である奈留島の物流インフラを担っている。鈴木信吉代表が経営するスーパーマーケット「新鮮館すずらん」も長年の取引先の一社であった。鈴木代表は自身が高齢であることに加え、昨今の島民人口の減少や人件費の上昇を受けて経営の先行きに不安を抱いていたが、地域住民の生活と従業員の雇用を守りたいという思いで、2020年、本格的な事業承継に着手。鈴木代表の子息は島外に住んでおり後継者がいない中、地元の五島市商工会に相談したところ、長崎県事業承継・引継ぎ支援センターを紹介され、譲受先探しを始めた。
▶ 島のために事業承継を決意。新鮮館すずらんを廃業から救う
新鮮館すずらんの譲受先探しは、主に離島の事業であることなどを理由に難航。譲渡はなかなか実現せず、鈴木代表はやむなく、2022年10月をもって廃業することを決意した。当時、新鮮館すずらんのほかに島内のスーパーマーケットは残り1店の状況で、新鮮館すずらんの廃業は島民の利便性悪化や地元経済の縮小につながり、地域の活力が失われてしまうことが懸念されていた。新鮮館すずらんの承継について、柿森社長も同センター同席の下でマッチングを行ったが、異業種のスーパーマーケット経営を担うことに不安もあり、慎重に検討を重ねていた。しかし、廃業日が間近に迫る中、島民に愛されている新鮮館すずらんをこのままなくす訳にはいかない、島のために自分が何とかしなければならないという強い使命感で、ついに承継を決断するに至った。合意後の事業承継に関する手続きは同センターが中心となり、契約まで伴走したことでスムーズに進められた。結果として、新鮮館すずらんの看板は守られ、従業員19名についても全員の雇用を継続することができた。
▶ 「店はコミュニケーションの場」。常連客からの感謝の声を受けて、更に魅力的な店づくりを目指す
鈴木代表は「人間が最後まで必要とするのは食料品。人がいる限り食料品は絶対に必要になるため、店を存続させたい思いが強かった。信頼できる柿森社長に事業承継ができて心配事は何もなくなった」と話す。一方、柿森社長にとってスーパーマーケット事業は全くの畑違い。運送業との価格設定の考え方の違いなどに経営の難しさを感じながらも、同事業に携わっていく中で、この店が島民のコミュニケーションの場にもなっていることに気付いた。店の存続は常連客から大いに感謝され、「島のため」と決めた承継が実際に島民の日々の生活を支えていることを実感している。柿森社長の目下の課題は、奈留島が離島のために商品を卸す商社の足が遠のいてきたことだ。「このままでは品ぞろえが乏しくなり、島民は更に不便になる。自ら積極的に商品の視察に出向いて魅力的な商品を見つけ、地元住民の声を反映させて品ぞろえを豊かにできるよう努めていく」と柿森社長は語る。
柿森誠社長(左)、長崎県事業承継・引継ぎ支援センター 濱里幸司氏(中央)、鈴木信吉代表(右)
「新鮮館すずらん」の外観
島民とのコミュニケーションの場