コラム
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企業規模別・業種別に見た価格転嫁の状況
1. 価格転嫁状況の把握に向けた分析の概要
中小企業・小規模事業者を取り巻く外部環境が大きく変化する中、中小企業が抱える足下の経営課題において、輸入物価上昇などに起因する原材料価格高騰や、人材不足に起因する人件費上昇といった問題の影響度が高まっている。これらの問題に対処するためには、コスト上昇分の適切な価格転嫁を進めることがより一層重要となると考えられる。
現状、企業間取引における取引価格を直接的に捕捉する公的統計や民間データは限られているため、価格転嫁の状況を正確に把握することは容易ではない。また、企業規模や業種ごとの取引慣行等の違いも存在することが想定されるため、企業規模別・業種別での比較を行わなければ、価格転嫁の実態を理解することは困難であると考えられる。
そこで本コラムでは、先行研究 57 等を踏まえて、価格転嫁の状況に関する以下二つの分析を行った。一つは、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(以下、「日銀短観」という。)における販売価格DI、仕入価格DIをカールソン・パーキン法により修正したデータを用いて推計した「付加価値デフレーター」と、それが労働生産性に与える影響についての分析である。もう一つは、公的統計で把握できる財務データから推計した「マークアップ率」と、それが利益率・設備投資額・賃金水準といった企業の経営指標に与える影響についての分析である。
なお、本コラムでは、「中小企業の価格転嫁状況を把握する指標開発のための調査・分析事業 58 」(以下、「本事業」という。)において実施した分析結果を中心に紹介する。
2. 付加価値デフレーターの分析結果
付加価値デフレーターとは、企業が生み出す付加価値の「価格」に相当するものである。付加価値は、売上高(販売価格×販売数量)から中間投入(仕入価格×仕入数量)を差し引いたものであるため、販売数量と仕入数量との関係性が一定であるとき、付加価値デフレーターの変化は販売価格の変化と仕入価格の変化から算出される。すなわち、付加価値デフレーターは、仕入価格の変化分に係る販売価格への転嫁度合いを示す指標であると解釈できることから、本コラムでは「価格転嫁力指標」と表すこととする 59 。
価格転嫁力指標を推計するには、販売価格・仕入価格の変化率を把握する必要がある。本事業では、鎌田・吉村(2010)及び中小企業白書(2014)に基づき、日銀短観から取得した販売価格DI・仕入価格DIのデータに対してカールソン・パーキン法を適用して、販売価格・仕入価格の変化率を企業規模別・業種別に算出することで、価格転嫁力指標の推計を行った。
また、カールソン・パーキン法を適用するに当たっては、価格変化率の情報を物価統計から補完する必要があることから、日本銀行「企業物価指数」、「企業向けサービス価格指数」、「最終需要・中間需要物価指数」、総務省「消費者物価指数」のデータを取得し、総務省「産業連関表」から計算した業種別のウェイトを用いて、業種ごとに補完する価格変化率を算出した 60 。なお、本指標の分析で使用するデータは、いずれも2015年1月以降のものであり最新時点は2024年6月である。
57 内閣府(2023)、鎌田・吉村(2010)ほか
58 詳細は、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(同)「令和6年度中小企業実態調査事業(中小企業の価格転嫁状況を把握する指標開発のための調査・分析)調査報告書」による。
59 付加価値デフレーターの分析について、用語の定義や推計手法等に関する本コラムの記載内容の詳細は、鎌田・吉村(2010)及び2014年版中小企業白書第1部第1章第3節を参照。
60 算出方法の詳細は、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(同)「令和6年度中小企業実態調査事業(中小企業の価格転嫁状況を把握する指標開発のための調査・分析)調査報告書」を参照。