2. サプライチェーン事業承継の実践に当たって
サプライチェーン事業承継を実施する方法は、主に三つある。
一つ目は、自社で事業承継することができなかったとしても、取引先に代わって事業承継支援機関を紹介することである。各都道府県に設置されている公的相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」等の事業承継支援機関を紹介し、後継者の有無にかかわらず、早めの親族内承継・第三者承継の支援につなげていくことが重要である。
二つ目は、従業員の派遣による技術・ノウハウの承継、運営体制の維持だ。サプライチェーンの維持を目的に自社の従業員を取引先に派遣し、技術・ノウハウの承継、運営体制の維持を支援することも重要な支援方法になる。
三つ目は、M&Aだ。サプライチェーンの維持とともに将来的な発展のため、取引先に対してM&Aを打診し、自社で取引先の事業を承継することで、連鎖廃業を防止し、さらに既存事業のシナジー効果による更なる発展を目指していくことが可能となる。ただし、対等な立場での条件交渉が重要である。
以上が、サプライチェーン事業承継の具体的な取組方法である。最後に、実際にサプライチェーン事業承継が行われた事例として、M&Aによるサプライチェーン事業承継の事例を二つ紹介する。
事例:株式会社大楨精機
埼玉県朝霞市の株式会社大楨精機は、5軸マシニング加工の達人として知られる切削加工業者である。30年以上の取引関係がある埼玉県川口市の鋳造会社である株式会社エヌケーが廃業予定だと聞き、同社の大町亮介社長は、すぐさまサプライチェーン事業承継を提案したという。そこには、これまでの両者の関係性ももとより、1社廃業することによって生じるサプライチェーンの崩壊や連鎖廃業の危険性を防ぐことができ、また、これまで外注していた鋳造業に参入することで幅広い金属加工のニーズに対応でき、新規案件を獲得できるという既存事業とのシナジー効果が見込まれたことが大きかった。
そして、株式会社エヌケーや取引先からも早期に承諾が得られ、事業承継は一気に進んだ。廃業を予定していた株式会社エヌケーは、従業員と生産設備だけでなく、既存の取引先も承継することができ、同社側も事業承継により、大きな資金負担なく鋳造部門を自社保有することが実現した。
さらに、実際に事業を承継した後のシナジー効果は大きく、作業効率の向上はもちろん、鋳造から切削までをセットで取り扱う案件の受注量は、以前に比べて10倍に拡大したという。サプライチェーン事業承継による社内体制の強化は、新規顧客の開拓など事業領域の拡大につながっていると考えられ、新たな挑戦が今後も続けられていくことを期待したい。
大町亮介社長
社屋外観
同社製品の展示スペース